電通大「おもちゃの病院」インタビュー
今回の記事では、一般社団法人 目黒会の事業の1つである「おもちゃの病院『いっしょになおそう』」を取材しました!

電通大 「おもちゃの病院 『いっしょになおそう』」のドクターたち。
全体ではさらに多くのドクターが在籍している。
(写真:ぽんず!)
「おもちゃの病院」の概要と設立のきっかけ
ー 「おもちゃの病院」は目黒会の中の組織として活動されているという形ですか?
そうですね、目黒会の中に10個くらい委員会があって、その中の社会貢献委員会という位置づけです。「発明クラブ」「工作教室」「おもちゃの病院」の3つがあります。大学の社会連携センターとも組んでいて、目黒会と大学の橋渡しのような、真ん中にいる感じです。開催は夏休みや試験期を除いて年に21回で、受付やドクターの募集は大学のホームページ等で行っています。

おもちゃの病院のHP (電通大HP内)
URL: https://www.uec.ac.jp/about/exchange/toy.html
ー 皆さん、それぞれ自分の得意としている専門分野があって、ここに集まってやっているのでしょうか?
それほど「得意分野」というのはなくて、引退した後に何を楽しむかという選択肢の一つですね(笑)。始めたきっかけは20年ちょっと前、目黒会会長で大学の理事もやっていた前田さんが、「世の中の理系離れが激しいから、少しでも興味を持ってもらえれば」と考えたことでした。実際にここに来ていた子が何人か電通大に入っていますし、興味を持ってもらって、いずれは皆さんと一緒に活動できたらいいなという目的でやっています。
電通大の「おもちゃの病院」ならではの特徴
ー 民間など他のおもちゃの病院も色々あると思うんですが、あえて電通大でやるからこその特徴みたいなものはありますか?
通常のおもちゃの病院は「預かって直して返す」のがほとんどですが、ここは「いっしょになおそう」というコンセプトなんです。子どもたちや親御さんと対話しながら原因を知ってもらい、科学する心を育ててほしいというのが基本です。全国に200以上おもちゃの病院がある中で、このコンセプトでやっているところは少ないと思います。興味のある子には、大きさに関係なく「これネジ締めてごらん」とドライバーを持たせたりもしていますよ。
ー タブレットのように「電源がつきません」という症状だと、光や動きがないので、どうやって興味を持ってもらうのかなと気になります。
それは難しいところもありますが、開けただけで普段見ない中身に食いついてくる子が多いですね。中には、ぐるぐる回る部品に顔を近づけて見ていたり、帰り際に置いてある専門書を片端から読んでいたりする子もいて、「うち(電通大)に来るんじゃないか?」なんて思ったりします。
最近の修理難易度と部品の悩み
ちなみに、数時間で直らない可能性があるものは「入院手続き」をしてお預かりし、後日引き換え証を持ってきたら返却する形をとっています。
ー 最近はICチップがどんどん増えたりして、修理の難易度は上がっているんですか?
実は、海外製であっても回路自体が壊れることは少ないんです。私たちが一番悩んでいるのは「ギア(歯車)」ですね。おもちゃごとに歯の数、形、太さ、材質などが微妙に違い、互換性のある部品が手に入らないというジレンマがあります。5~600個の部品をストックしていても対応しきれないことが多いです。逆にモーターは規格化されているので直しやすいですし、スピーカーもだいたい直せます。
それから現実問題として、コストダウンの影響なのか「配線材(ケーブル)」で悩むことが多いです。
本来10芯くらいを撚る銅線が2、3本しか入っておらず、被覆の中で全部錆びていてはんだ付けすらできない劣悪なケーブルが多いんです。
そういう細い線に電気を流すのも怖いですし、動く部分や引っ張っただけでポロッと切れてしまいます。
ー 子どものパソコン型おもちゃやマウスの線なんかも、みんな切れますよね。LANケーブルなどは使えないんですか?
やはり本体の付け根で切れますよね、髪の毛より細い芯ですから。LANケーブルは固定して動かさないから単線(芯が一本)でもいいんですが、おもちゃは動くから屈曲する「撚(より)線」が必要なんです。安いやつは中のプラスチック材料(可塑剤)が染み出して錆びさせるので、秋葉原などで良いケーブルを買って用意しています。
他のおもちゃの病院との共通ルール
ー 修理を受け付けないおもちゃの基準などはありますか。
この前、蕨市のおもちゃの病院にも行ったんですが、どこも共通して「鉄砲やピストルなどの凶器類は直さない」としています。また、浮き輪などは命に関わるからダメですし、ブリキのおもちゃなどは10万円以上する「骨董品」にあたり、いじると価値が下がるため承認がないと触れません。
大人が自分の趣味で電子ピアノなどを持ち込むこともありますが、あくまで「お子さんのおもちゃを直す」「ものを大切にする心を育む」という目的を第一にしています。

コロナ禍前のおもちゃの病院の掲示をいただいた。
確かに、受け入れ制限があるのが分かる。(提供:おもちゃの病院)
電通大生にお願いしたいこと
学生さんの中に、顕微鏡で見るような細かい作業ができる「超能力」を持った子がいたら、ぜひ飛び入りしてほしいなと思っています。我々は皆どうしても老眼で老けてきているから(笑)。
ー たしかに電通大にはロボメカ工房もありますし、繊細な手つきが自慢な人は多いと思います。
そういう若い子が「ちょっと応援します」と声をかけてくれると本当に嬉しいですね。
コロナ禍を経て変わった環境
ちょっと運営面で困っているのは、事前のキャンセルです。 ドクターが8人来ているのに修理品が6個しかないということがあっても、時間内に終わらせないといけないので特別に代わりの方を募集できず、うまく回せない悩みがあります。 コロナ前は制限を設けず、月に1回20組くらい受け入れていたんですが、今は予約を8組で打ち切っている状態です。
ー 今回の8組の予約に対して、ドクター8人で対応しているということですか?
ドクターは全員で13人いて、だいたい毎回8人以上は来てくれます。 もし予約のお客さんが全員来ても、早く終わるドクターが次のお客さんを対応したりするので、今の人数感で滞りなく回っています。 ただ、我々も年をとっているので、せめて50代くらいの若いドクターに入ってきていただきたいのですが、なかなか増えないですね。
ー 電通大出身の先輩方で「おもちゃの病院」を大学外で行っている方はいるのですか?
全然別の仙台の方ですが、同じ志を持った方がいます。これは同世代で、個人でボランティアをやっておられる大先輩の本です。
またコロナ禍の時には、近所にお住まいで個人的に修理をやっていた「テクニシャン」の方が加わってくれて色々教わったのですが、風邪をこじらせて亡くなられてしまったという悲しい出来事もありました。

電通大出身の「おもちゃの病院」ドクター 市来さんの著書を紹介していただいた。
『おもちゃドクター こわれたおもちゃを直します!』市来 歳世彦 / 梟社
ー コロナ禍を経て、全然環境が変わってしまったんですね。
昔は1つの机で対面していたんですが、コロナで距離を離したため、お子さんの手が届かなくて少し不便を感じています。 ビニールの仕切りを入れていた時期もありましたが、窓口みたいで隔離されている感じがしてやりづらかったですね。
「おもちゃの病院」のDX化
ー ドクター間で「電池を入れ替えただけでしょう」といったお話をされていましたが、古いものから最新のものまで、修理の技術や知識はどうやって共有しているんですか?
直せた時の方法や、直せなかった理由の情報を共有することは大変重視しています。 これまでは紙に思い思いに書いていたんですが、字が読みづらかったりするので、チェックボックス形式にしてキーワードで一目でわかるようにする「DX化」を進めているところです。 コロナ禍で技術の伝承が少し停滞してしまったので、新しいドクターのためにもノウハウの引き継ぎを目指しています。
実はおもちゃの故障の7割くらいは基本的な問題で、苦労しなくても直せるんです。 一番難しいのは「ICの動きが悪い」場合で、おもちゃメーカーは部品を公開していないため型番もわからず、交換部品がないのでお手上げになります。 でもそれは20件に1件あるかないかで、だいたいは「このメーカーのここが壊れやすい」という知識が積み上がっています。 1人のドクターが困ったら、みんなで顔を突き合わせて知恵を出し合って対応しています。
修理不可能なものへの向き合い方とやりがい
ー 頑張っても修理できないものには、どう向き合われているのかなと気になります。
目の前で試行錯誤しているところを見せて、説明しながら直しているので、直せなかった場合でも親御さんに納得していただけます。自分たちができる範囲じゃなかったら、謝って返すしかないですね。
ー 直す過程で壊れてしまうこともリスクとしてしょうがないから、「マイナスにするんじゃなくて、ゼロのままでお返しする」のも重要ということですね。
直している過程で割れてしまったり、線が抜けて元がどうなっていたか分からなくなるのが一番困ります。そうならないよう、ネジを外すごとに写真を撮って位置を記録したり、あらかじめケーブルの写真を撮っておくのがコツですね。最近はフリマアプリで「新品じゃなかった」と壊れたものが持ち込まれたり、親御さんが無理にネジを回して頭をなめてしまっているみたいなケースも多いです。
ー 家庭で直そうとしてダメだったから、頼みの綱として持ってくることもあるんですね。
それでもダメなら「おもちゃ屋に行こう」と子どもが騒いでいる時もあります(笑)。でも、新しいものを買うのとは違い、子どもながらに愛着があるんでしょうね。すごく汚れていても、綺麗に掃除しすぎると違うおもちゃになってしまうので、やりすぎないことも大事にしています。
ー プロフェッショナルから見た「おもちゃ」とは、どういう存在ですか?
子どもにとって思い出深く、成長の過程で良い時期を過ごしてほしいと願っています。たかがおもちゃ、されどおもちゃ。ずっと遊ぶ相手であり「思い」に繋がるものだからこそ、作るより直す方が難しい。それを直す手伝いをして、子どもがめちゃくちゃ喜んで笑顔を見せてくれるのが一番の楽しみですね。
エンジニアとしてのアドバイス
ー 最後に、現役の電通大生や新入生に向けて、エンジニアとしてのアドバイスがあればお伺いしたいです。
子どもの頃から色んなものを触って遊んでいればいいんです。 我々の世代は真空管から始まり、トランジスタが1個1000円した時代に、アンプを作ったり同調回路のコイルを自分で巻いたりしていました。 今はブラックボックス化されすぎていて、出来合いのデバイスばかりで中身を見る機会がなくなってしまっています。 だからせめて、おもちゃの病院の存在を認識して、気軽に覗きに来て「横から手を出して」ほしいです。 どんな技術を持ってこいなんて考えません。若い人が見学に来てくれるだけで刺激になりますし、子どもたちとラジコンで一緒に遊んでくれればありがたいです。
コラム『おもちゃの病院の見学と部品について』
ー 修理の見学で、電通大生にとって勉強になるなと思えるところはどういったところでしょう?
プラスチックの修理なんかは勉強になりますよ。 ただ捨てるのではなく、我々は細いネジを温めてねじ込んで丸ごと固めたり、針金を入れて補強して元より丈夫に作ったりしています。
ー 部品作りだったら、西地区にある「3Dプリンター」で学生が手伝ってくれるかもしれないですね。
それができれば最高ですね!ぜひ頼みたいです。 3Dプリンターで強度を保ってギアなどが作れたら導入したいんですが、我々の中には3Dデータを作れる人が誰もいないんです。 おもちゃ病院協会という一般社団法人ではギアの3Dデータを出しているらしいのですが、我々は入っていません。年会費が高くて赤字だそうです。 おもちゃ病院にとって一番大事なのは「在庫部品」で、いくらあっても足りないんです。
ー 特殊なドライバーを中国から取り寄せたりもしますよね。
ネジもY字(3つ切り)や星型など独特で、おもちゃ用は普通ならいらないような小さいサイズが必要です。これでもまだ足りないことがあります。 接着剤も、1回使うと固まってしまったり、水に濡れると発熱して火傷する危険があったりと、子どもが触るものだからこそ気を使います。 全部でんぷんのりでつけられればいいんですけどね(笑)。
